犬生の気高さよ

君を忘れない

現代人は電気羆の夢を見るか?知床1人旅-day2&3 ただ夜が明けることを

午前中から夕方まで氷点下の気温の中出歩いていたので、部屋についてひと段落した途端ドッと疲れがきて、なんだか遠くの方に体調不良の音が聞こえてきた。
これはいかん、と部屋に座布団を敷いて寝転がる。
現在17時過ぎ、夜ご飯は18:30でお願いしたので、それまでごろごろと寝転んで過ごした。
ゆっくり身体を休めると体調不良の予感も鳴りを潜め、夕食の時間にはすっかり元気になっていた。

時間になったので一階の食事処に向かうと、既にばっちり準備がされていた。

なんだかお洒落だ。

串に刺された具材を自分で揚げる天ぷららしい。
常に揚げたてを食べられて、衣をまぶして自分で揚げる楽しみもあるのが嬉しい。

こちらが本日のメニュー

美味しく食べても具材が分からないことがあるので、こうしてお品書きがあると助かる。


左上から時計回りに、冷磯麺、ほうれん草と山菜の胡麻和え、道産三元豚の低温調理(山葡萄ジュレかけ)、食前酒 北海道ハスカップ酒、帆立のわさび漬け、スモークサーモン・胡瓜・海藻・自家製こけもも酢。


 

お刺身は羅臼産 ぶり船上〆、近海産 甘海老、羅臼産 桜鱒、ウトロ産 やなぎたこ。

天ぷらの具材はかぼちゃ、じゃがいも、茄子、チーズ、しいたけ、ピーマン、ささみの大葉巻き、知床産帆立。
これらを一つずつ揚げて、添えられたふのり塩でいただく。
火傷しそうなぐらい熱い食べ物が好きなので、ずっと揚げたてを食べられるのが嬉しかった。天ぷらは特に揚げたてに限る。
自分でやるのはめんどくさいという人も居るかもしれないが、私は自分で加減を見られるこのスタイルが好きだ。宿からの「食事に楽しみを」という気持ちも感じられる。


焼き物はウトロ産秋鮭のバター焼きか羅臼産帆立の浜焼きが選べたので、鮭にした。
これもふわふわでとても美味しい。
真ん中が割れているのはわたしが写真を撮るのを忘れて箸を一度刺してしまったから。待ちきれなかった。


帆立の味噌汁とご飯も。なんとも贅沢なお味噌汁。


せっかくなのでお酒も注文した。
知床限定、鮭の酒。普段日本酒は飲まないが、とても飲みやすく美味しかった。
パッケージもお猪口も可愛い。

どの食事もとても美味しかった。
その中でも1番を決めるとすると、小鉢にあった帆立のわさび漬け!
本当に美味しかった。貝全般がそんなに好きではないので、普段は帆立を食べることがなく、帆立が出てきてもあまり嬉しい気持ちもない。かといって食べられないわけではないので食べる、という感じで口にした途端美味しすぎて驚いた。
知床滞在中、どの食事も美味しかったが、1番を決めるとするならこれだと思う。

宿の口コミではボリュームが足りないと書いてる人がいたが、たしかに大食いの人であれば物足りない気持ちはあるかもしれない。
でもわたしも恐らく平均の女性よりはよく食べる方だが、天ぷらも一つずつ揚げながらゆっくり食べるので、食べ終わった頃には満腹になっていた。
なので量的にも十分だと思う。

天ぷらの油は固形燃料で暖めていて、わりと消費が早くすぐに消えてしまうのだが、消える前にスタッフの方が見計らって換えに来てくれるので不自由はなかった。
配膳してくれる女性も若い人で、飲み屋で出会ったあの子と同じように他所の土地から観光繁忙期に向けてこちらに働きに来た子だという。
その子とも食事の合間にお話し出来て楽しかった。
出会う人皆にあたたかさを感じた。


大満足で食事を終え、ホテルのロビー周辺を散策し、コーヒーサーバーで食後のコーヒーを淹れ、暖炉前の椅子に揺られながら置かれていた北海道新聞を読んだ。
普段新聞は読まないが、地方の新聞に興味があった。
そこに載っていたコラムが記憶に残っている。

「戦争はむごい、恐ろしい。それを心底分かっている人間、分かろうとする人間にこそ、日本の舵取りをする資格があると思うんや」
2022年3月の今の世界で改めて読むと、とても身に沁みる言葉だ。


少しゆっくりした後、露天風呂の予約の時間になったので下に向かう。
この宿のいいところのひとつに、貸切露天風呂がある。
確か1時間程度で区切られていて、チェックイン時に予約した時間で貸切露天風呂が楽しめるのだ。
ホテル内には内湯もあり、そちらも源泉かけ流しの温泉になっている。
とりあえず内湯で身体と頭を洗ってから露天風呂に行くことにした。
内湯と露天風呂は離れており、露天風呂は離れにあるので一度服を着て、鍵とランタンを借りて行かなければいけない。

まず内湯に入ると、先程夕食時に配膳してくれた女の子が入っていて驚いた。
スタッフと顔を合わせるアットホームさも面白い。

内湯は少し小さめの銭湯ぐらいの広さで、洗い場は4〜5個ぐらい。
こちらも温泉なのでゆっくり温まる。

そのあとまた浴衣を着て、露天風呂の鍵を借りにフロントに声を掛けると、外に出るためのダウンコートを貸し出してくれた。
一旦裏口を出て離れに行くので、コートの貸し出しがあるらしい。確かにすぐそことはいえこのマイナス10度の中浴衣1枚で歩くことはできない。
コートとランタンを借りて裏口に行くと、出口に長靴が置いてあるので、それを履いて離れの露天風呂に向かう。


裏口を出てすぐのこの階段を登ると、脱衣場と露天風呂がある。

移動して服を脱いだだけで濡れた髪が凍ってしまったのには笑った。
マイナス10度の世界、すごいぞ。

露天風呂はこちら。温度が下がらないように一部蓋がされている。

湯船からの視点

湯船に入って上を見ると、満天の星空が見える。

当然ながら、写真よりも肉眼で見る方がよっぽど綺麗な星空だった。
真冬の氷点下の空気の中、満天の冬の星空を見上げながらあったかい湯に浸かり、好きな音楽を聴く。
とても贅沢な時間だった。この非日常感、このためにわたしはここに来たのだと思った。

今日一日のことを思い出しながら、ゆっくりと湯に浸かると頭と身体のすべてがほぐれて行くような気がした。

冬の星空を見れたので、今度来る時は夕方に夕日を見ながら入るのもいいかもしれない。
やっぱり春も夏も秋も冬も訪れなければならない。

ゆっくり楽しんだので部屋に戻る。
裏口の近くを見てみると、ここにも至る所に動物の足跡が。ホテルのすぐ裏にも動物がたくさん暮らしていることが分かる。

この小ささと歩き方はテンじゃないか?

このサイズはキツネ?と考えるだけで楽しい。


楽しかったなぁ……と濃かった今日一日を噛み締めて布団に入った。



知床最後の日。
きちんと起きて時間通り朝食に向かった。
昨夜の夕食でこの宿の食事は美味しいことが分かったので、朝食にも期待が募る。

朝食メニュー

豪華な朝ご飯!

味噌汁の味噌は自家製、ふのりも手摘みして天日干ししたものらしい。
いくらの醤油漬けとドレッシングも自家製とのこと。
手作り満載で嬉しい。

サラダには生ハムとじゃがいも入り。ドレッシングも2種類どちらもとっても美味しい!
メニューは焼き鮭、ふきの煮付け、きんぴら、いくら、大根の酢漬け、ヨーグルト、湯葉、卵焼き。

どれもとっても美味しかった!
これを書いている間も恋しくなるぐらい良い朝食だった。
連泊すれば毎日この朝食が食べられるのだろうか。あぁ、毎日食べたい。


とても綺麗に食べたので思わず写真を撮ってしまった。

人も優しく食事も美味しく、各地を旅行してきたがこんなに最高な宿は初めてかもしれない…
離れ難く思いながら、部屋に戻って身支度をする。

部屋の窓からの景色。

海が見える部屋は最高。


そろそろ出る時間になったのでチェックアウトする。
この宿は少し離れたところにあるので、ホテルの人がウトロ周辺の希望の場所まで送迎してくれるのだ。
帰りは道の駅から空港バスに乗るので、道の駅へ送って頂いた。

道の駅 うとろ・シリエトク

シリエトクはアイヌ語。知床の由来はここからだそう。

昨日の道の駅での買い物は冷凍の海鮮ものだけだったので、最後の買い物をする。
また要らないものまで沢山お土産を買い込んで、バスの時間まで道の駅の出口付近をうろついてみた。


ポケモンの可愛いマンホールを発見

なぜかロコンとパルキア

「ポケふた」という企画で、北海道だけじゃなく全国にこのポケモン柄のマンホールがあるらしい。初めて知った。

わたしの県にはどこにあるのかと調べてみたら

3つもあるのに全て淡路島でズッコケた。
偏りすぎだろ。そりゃ見たことないはずだ。

無い県もあるらしいが、わりと全国にあるそうなので、これを読んでる方もお近くのポケふたを見に行くのもいいかもしれない。

知床のオリジナルマンホールも可愛い

旅行先でその土地の可愛いマンホールを見るのが好きだ。


トイレに行くと、個室内に「羆にエサをやらないで」という張り紙が貼ってあった。

野生の羆が、人間が軽い気持ちで与えたソーセージから命を奪われてしまった話。
悲しすぎて読むだけで涙ぐんでしまった。
知床に来ると、至る所に「野生動物に餌を与えないで」と書かれている。こんなに色んなところに書いて注意喚起しても、愚かな観光客は軽い気持ちで野生動物に餌を与えるのであろう。
トイレの個室といういやでも目に入る場所にこんなに具体的な悲しい話を載せても、そういう人は読まないのだろう。
そう思うと怒りに震えた。

住む場所を奪うだけでなく、その軽率な行動がどんな結末を招くのか思い至らない、考えの無さに心底腹が立つ。それが自分と同じ人間というカテゴリに属しているから尚更許し難い。

泣いたり怒ったりしながら隣の知床世界遺産センターに入る。

知床の自然についての資料展示があって、もっと時間が取れる時にこればよかったと後悔した。

オオワシオジロワシの確認数のグラフもある。

こう見るとここウトロより羅臼の方が多く確認されている。

もっとゆっくり見て回りたかったが、バスの時間が迫っているので外に出た。
万一このバスを逃したらまたタクシーで今度は3時間もかけて空港へ行かなければいけない。それだけは絶対に避けたいので、余裕を持ってバス停で待つ。

降る雪がすべて雪の結晶になっている。

こんなに分かりやすい結晶のまま降ることがあるのかと驚いた。

無事バスにも乗れたので、あとは空港まで揺られるのみ。
かなり後ろ髪を引かれつつ、ウトロを後にする。

車窓からこの景色を見ているだけで感極まってしまう。

やはりわたしは冬の北海道が世界一好きだ。
初めて1人で遠征したのは高校1年生の時の函館ということもあり、昔から北海道には一方的な思い入れがあるのだが、今回の旅でますます北の大地への憧れを募らせてしまった。
 

途中、白鳥が沢山いる湖を通った。

一瞬すぎて写真が撮れなかったが、写真よりもっとたくさん白鳥がいた。ここもいつか行ってみたい。

無事女満別空港に到着。かなりこぢんまりしている。

食べる気満々だったスープカレー、時間がなくて食べられず……

代わりにカレーパンを買って帰った。

空港で最後の追い込みのようにまたお土産を爆買いし、待合室では白い恋人ソフトを購入。

購入してすぐに搭乗案内が来てしまって、大急ぎで食べる。生き急ぐな。


行きも帰りも雪で遅延することもなく、定刻通り出発。
本当に楽しかった。絶対にまた来るよと誓いながら、女満別空港を発った。

雪の降る地は空から見ても美しい。

航空券が安いからという理由だけで軽い気持ちで決めた旅だったが、想像以上に意味のある旅となった。
飲み屋で話した漁師さんが、リピーターで毎年来る人も多いと言っていた意味が良くわかる。私にとっても毎年訪れたい、思い入れのある場所になった。


知床で買ったお土産はこちら。

道の駅での購入品

トコさんタオルが可愛い。

木彫りのくまさん。

木彫りのくまなんてものはどう考えても不要物なので、普段の自分なら理性が働き購入には至らないが、この旅は不要物も思いのまま購入する旅。素朴で可愛いので買って帰った。
テレビ台に置いているが、目に入ると楽しかった思い出がじんわり蘇るので、買ってよかった。
不要物こそ必要なのだ、人生には。


ベタなお土産の筆頭、マグネット。

下の網走のものは網走監獄で買ったもの。
木彫りのアザラシとキツネと丸いトコさんのものは道の駅で。
冷蔵庫に貼りつけていると、このとぼけた顔が目に入るだけで少し優しい気持ちになる。

昨日ホテルで飲んだ鮭の酒が売っていたのでこちらも購入。

鹿肉カレーも買ってみた。
鹿肉の味はよく分からなかったが、美味しかった。


これは女満別空港での購入品

やっぱり北海道の土産物はただでさえ買いたいものが多すぎる。
札幌農学校クッキーが素朴なのにとても美味しかった。おすすめのお土産とされているだけある。


これは道の駅で買って冷凍配送した毛蟹と、鮭のあらで作った粕汁。実家に送って母に料理してもらった。

鮭がすごく美味しい。
毛蟹も初めて食べた。蟹味噌もあまり美味しいイメージがなかったが、この歳になってから口にすると美味しく食べられた。

鮭の親子漬けと明太子と鮭とば


この鮭とばは飲み屋のお姉さんからこれが1番美味しいとお薦めされたもの。
パッケージの左に作成者の漁師さんの写真が載っているのだが、飲み屋でお話しした漁師さんの顔で笑った。
あの人が作ったらしい。
この鮭とばも醤油味で脂が乗っていてかなり美味しかった。お取り寄せしたい。


知床のクマさん。

知床の小麦「きたほなみ」を使用しているそう。
冷たいままより温めて食べた方が美味しかった。


これは網走監獄でのお土産。ポストカードは網走駅の観光案内所で。
そういや食べていいオソマ、まだ食べてないな…

月寒あんぱんの中身。
鶴見中尉 いない なぜ



とても充実した旅であったことが、そして知床という土地の魅力が、この記事を読んだ方に伝わったなら長々と書いた甲斐があるというものだが、どうだろうか?

この記事を読んだ方の行きたい旅行先のひとつに、知床が入れば何よりだ。


人生でこんなに自然に触れたことはなかったこともあり、いつもぼんやり考えていたことを考え直すきっかけにもなって、私にとってはとても意味深い3日間だった。
毎年訪れる人も多いと聞いたが、その気持ちもよく分かる。
現に、わたしもすでに今年の10月にまた訪れる計画を立てている。
秋にはもっと動物に会えるのかと思うと、今からとても楽しみだ。



そういえば、この旅で実感したことがある。
それは「食べられるものは多い方がいい」ということ。
当然といえばそうなのだが、どんな料理が出されても美味しく食べられるということは、旅の充足感を上乗せしてくれる。

例えばふき。これも普段なら口にしたくないもののひとつだったが、初めに思い切って食べれば美味しく食べられた。
あとはいくら。いくらもこの1年ほどで食べられるようになったものだ。昔は一度食べても特に美味しさが分からず、その後ずっと食わず嫌いだったものが、この一年ぐらいでもう一度口にしたところ美味しさが分かる様になり、今では好物になった。
そのおかげで、この旅でも美味しいいくらを存分に楽しむことが出来た。

今のうちに食べられないものを無くしていけば、どこに行って何が出ても全部美味しく食べられるのではないだろうか。
それが食材と作り手への最大の感謝の表れにもなるので、これからもなるべく食べられないものは無くしていきたいと思う。


でもトマトときゅうり、おめーらはダメだ。



これが旅の締めくくりでいいだろうか。